“コードを丸ごと貼るだけ”では身につかない

―フランス語の格言を写す学習法との対比で考える―

TL;DR

  • 写経(コピペ)は入口としては有効だが、理解・応用フェーズに進まないと定着しない。
  • フランス語の格言をノートに書き写すだけでは会話に使えないのと同じで、コードも貼り付けて動くだけではスキルにならない
  • 学習効果を高める鍵は「写す → 動かす → 壊す → 直す → 改造する」の反復サイクル。

1. 背景 ― なぜ「写すだけ」学習が横行するのか

要因具体例
即時フィードバックの快感コードを貼って“動いた”瞬間に満足してしまう
情報量過多 / 時間不足公式チュートリアルが長大 → 手早く終わらせたい
学習モデルの誤解見本=最終形と考え、改変すべきものだと気付かない

2. フランス語の格言を書き写す学習と何が似ているのか

  • 手本を“形”としてコピーする行為である
  • 受動的なので、理解・運用スキルの伸びが限定的
  • 意味づけ・文脈づけを自分で行わない限り、暗記以上の効果は薄い

共通ポイント

“自分で使い方を試すフェーズ” がない限り、知識は習得ではなく 保管 にとどまる。


3. それでも写経が持つ3つの価値

  1. シンタックスの筋トレ — public class Foo {} を手入力することでタイピングと構文の反射的理解が進む
  2. コーディング規約の体得 — インデントや命名規則を「身体で覚える」
  3. 最小再現コードの抽出 — バグ報告用に問題箇所だけ抜き出して貼る技術は実務でも重要

4. コード学習を“写し”から“習得”へ進める5ステップ

ステップ実践例
① 自分の言葉でコメントを書く1行ずつ「なぜこの処理か」を日本語でメモ
② 入力を変えてみる0, null, 空文字列など異常値を投入
③ 構文・アルゴリズムを置換for → while/バブルソート → LINQ
④ バグをわざと埋め込む配列境界を超えてみる・例外を握り潰す
⑤ 仕様変更を自作して反映例:昇順ソートを降順+絞り込みに拡張

サンプル:写経→改造のミニ課題

// 元コード:整数リストを昇順に並べ替えて出力
var numbers = new List<int>{ 3, 1, 4, 1, 5 };
numbers.Sort();
Console.WriteLine(string.Join(", ", numbers)); // 1, 1, 3, 4, 5

課題

  1. 降順に並べ替える
  2. 偶数だけにフィルタしたうえで降順に並べ替える
  3. 空リストの場合に「データなし」と表示するガード節を入れる

5. “写すだけ”と“無から作る”を脱却する自己スキル向上ロードマップ

ゴール: コードを“写す”フェーズと“ゼロから書く”フェーズの間に “再構成(Rebuild)” フェーズを設け――設計力・改変力・創造力を段階的に育てる。

5.1 学習フェーズの三位一体

フェーズ目的成果物主な質問
Input (写す)外部知識をインポート写経コード/メモどう書くの?
Rebuild (再構成)構造を理解し再設計リファクタ版コード/設計図なぜこう書くの?
Invent (創造)新しい課題を解決オリジナルアプリ/ライブラリどう応用する?

ポイント — Rebuild は「写す」と「作る」の接着剤。ここで責務分割と設計意図を身体化させる。

5.2 リバースエンジニアリング・ワークフロー

  1. スナップショット取得 ― 完動するサンプルを Git clone / zip 保存。
  2. 分解 (Decompose) ― クラス図・シーケンス図を手書きで起こし、依存関係を可視化。
  3. 再構築 (Rebuild) ― 主要クラスの実装を 1 つずつ作り直す。
  4. 差分ベンチマーク ― オリジナルと性能・行数・可読性を比較。
  5. 回顧リスト (Retrospective) ― 良かった設計/悪かった設計を箇条書き。


⚙️ 90 分タイムボックス例

区間目標
0-15 分探索的リーディング & 動作確認
15-35 分クラス図・責務メモを書く
35-60 分コアロジックを写経せず自力実装
60-80 分動作比較・ベンチマーク │
80-90 分Retrospective 記録 │

5.3 デザインジャーナル & Feynman Summaries

  • デザインジャーナル — 1 つのコミット/関数に対し “Design Decision, Alternatives, Reason” を50字で残す。
  • Feynman Summary — 実装後に「小学生にも分かる言葉」で仕組みを1パラグラフ要約。

5.4 デリバレートプラクティス 30-60-90 ループ

時間フェーズ
30 分Plan — 新仕様を 1 行で定義「ファイル入出力を非同期化」
60 分Do — テスト駆動で実装NUnit + async/await
90 分Reflect — Code Review & メトリクス記録サイクロマティック複雑度, LOC

5.5 プロジェクト Remix ラダー

レベル改変度学習焦点
00% (コピー)写経して動作確認文法習熟
110% (微調整)変数名・UI文言変更IDE操作 & リネーム
230% (機能追加)入力チェック / ログ出力エラーハンドリング
360% (仕様変更)同期→非同期化, 配列→Listアーキテクチャ選択
480-100% (再実装)新UI/フレームワークに移植設計原則適用

5.6 フィードバックループを増幅するツール

  • 静的解析 — SonarLint, Roslyn Analyzers で即席レビュー
  • AI ラバーダック — ChatGPT に “Explain what this block does” を投げて解説を比較
  • コミュニティ — CodeReview.SE / Reddit / Qiita コメントで外部視点を導入

5.7 メトリクスで自己プロファイル

指標追い方目的
WPM (タイピング)typing.com 週次測定IDE操作速度向上
Commits / DayGit log 集計粒度・継続性把握
Code Kata 完了数LeetCode/AtCoder問題解決筋力
リファクタ率git diff –stat で削除 vs 追加行無駄削減傾向

ミニ目標: 1 週間で「Remix ラダー Lv2」への改変を 2 本こなすと、設計と改変の耐性が一段上がる。

6. まとめ

  • 写経はスタートライン — タイピングと構文に慣れるには有効。
  • ゼロからの創作もゴールではない — 中間の“再構成”フェーズで設計思考を養う。
  • 本質的な学習は能動的改変とフィードバックの反復 — 実行・検証・失敗を経て理解が深化。
  • フランス語の格言もコードも「使ってナンボ」 — 意味・文脈・応用まで踏み込むことで、初めてスキルとして定着する。

Next Action

今写経しているコードを、まずは5%だけ要件を変えて動かしてみよう。その小さなズレが設計力の種になります。

訪問数 3 回, 今日の訪問数 3回

学習

Posted by hidepon