UnityにおけるJSONシリアライズユーティリティ比較ガイド

Unityにおけるデータのシリアライズとデシリアライズは、ゲーム開発において非常に重要な役割を果たします。特にJSON(JavaScript Object Notation)は、データの保存や通信に広く利用されており、効率的なデータ管理のために適切なシリアライズユーティリティの選択が求められます。本資料では、Unityで利用可能な主要なJSONシリアライズユーティリティを比較し、それぞれの特徴、利点、欠点を詳しく解説します。

JSONシリアライズユーティリティの概要

JSONシリアライズとは、オブジェクトの状態をJSON形式の文字列に変換するプロセスを指し、デシリアライズはその逆のプロセスです。Unityでは、ゲームデータの保存や外部とのデータ交換の際にJSONが頻繁に使用されます。以下に、Unityで使用可能な主要なJSONシリアライズユーティリティについて詳述します。

主要なJSONユーティリティの比較

1. UnityのJsonUtility

概要

  • 提供元: Unity標準ライブラリ
  • 主な用途: シンプルなデータのシリアライズ/デシリアライズ
  • 対応プラットフォーム: Unityがサポートするすべてのプラットフォーム

特徴

  • 軽量: Unityに組み込まれており、追加のパッケージをインストールする必要がありません。
  • パフォーマンス: 高速なシリアライズ/デシリアライズが可能です。
  • 制約: ポリモーフィズム(継承関係のクラス)や複雑なデータ構造のシリアライズには制限があります。

利点

  • 統合性: Unityエディタとシームレスに統合されています。
  • シンプルさ: 基本的なクラスや構造体のシリアライズには十分対応。
  • パフォーマンス: 軽量で高速な処理が可能。

欠点

  • 機能制限: 継承関係のクラスやポリモーフィックなシリアライズを直接サポートしていません。
  • 柔軟性の欠如: カスタムコンバータや高度なシリアライズ設定が困難。

使用例

[System.Serializable]
public class Player
{
    public string name;
    public int level;
}

Player player = new Player { name = "Alice", level = 5 };
string json = JsonUtility.ToJson(player);
Player deserializedPlayer = JsonUtility.FromJson<Player>(json);

2. Newtonsoft.Json(Json.NET)

概要

  • 提供元: Newtonsoft社(オープンソース)
  • 主な用途: 高機能なJSONシリアライズ/デシリアライズ
  • 対応プラットフォーム: Unityを含む多数のプラットフォーム

特徴

  • 高機能: ポリモーフィックなシリアライズ、カスタムコンバータ、LINQ to JSONなどをサポート。
  • 柔軟性: 複雑なデータ構造やカスタムシリアライズ要件に対応可能。
  • コミュニティとサポート: 広範なドキュメントとコミュニティサポート。

利点

  • ポリモーフィズムのサポート: 継承関係のクラスもシリアライズ可能。
  • カスタマイズ性: カスタムコンバータやシリアライズ設定の柔軟な調整が可能。
  • 機能豊富: データ変換、エラー処理、Null値の扱いなど多彩な機能を提供。

欠点

  • パフォーマンス: JsonUtilityに比べて若干遅い場合があります。
  • サイズ: ライブラリのサイズが大きいため、軽量さが求められるプロジェクトでは不向きな場合があります。

導入方法

  • UnityのPackage ManagerNuGetを使用してインストールします。
  • Newtonsoft.Json for Unity などの専用パッケージを利用すると便利です。

使用例

using Newtonsoft.Json;

public class BaseClass
{
    public string commonField;
}

public class DerivedClass : BaseClass
{
    public int specificField;
}

// シリアライズ
BaseClass obj = new DerivedClass { commonField = "common", specificField = 123 };
string json = JsonConvert.SerializeObject(obj, new JsonSerializerSettings
{
    TypeNameHandling = TypeNameHandling.All
});

// デシリアライズ
BaseClass deserializedObj = JsonConvert.DeserializeObject<BaseClass>(json, new JsonSerializerSettings
{
    TypeNameHandling = TypeNameHandling.All
});

3. System.Text.Json

概要

  • 提供元: Microsoft
  • 主な用途: .NET Core以降の標準JSONシリアライズ/デシリアライズ
  • 対応プラットフォーム: .NET Core 3.0以降、Unityでも利用可能(バージョンによる制約あり)

特徴

  • パフォーマンス: 高速なシリアライズ/デシリアライズ。
  • 軽量: ライブラリサイズが小さく、.NET標準ライブラリに統合されています。
  • 機能制限: Newtonsoft.Jsonほどの機能は持たないが、基本的な機能は網羅。

利点

  • パフォーマンス: 非常に高速。
  • 標準化: .NET標準ライブラリとして広く採用。
  • セキュリティ: 型情報の扱いが安全で、Newtonsoft.Jsonよりもセキュリティ面で優れる場合があります。

欠点

  • 機能不足: ポリモーフィズムのサポートや高度なシリアライズ設定が制限されています。
  • Unityとの互換性: Unityのバージョンによっては完全にサポートされていない場合があります。

導入方法

  • .NET Core 3.0以降では標準で利用可能。
  • Unityでは、適切なバージョンの.NET互換を確認し、必要に応じてパッケージを追加します。

使用例

using System.Text.Json;

public class Player
{
    public string Name { get; set; }
    public int Level { get; set; }
}

Player player = new Player { Name = "Bob", Level = 10 };
string json = JsonSerializer.Serialize(player);
Player deserializedPlayer = JsonSerializer.Deserialize<Player>(json);

4. SimpleJSON

概要

  • 提供元: オープンソースコミュニティ
  • 主な用途: 簡易的なJSON操作
  • 対応プラットフォーム: Unityを含む多数のプラットフォーム

特徴

  • シンプルさ: 軽量で直感的なAPI。
  • 柔軟性: 動的なJSONデータの扱いが容易。
  • 依存関係なし: 他のライブラリに依存しない。

利点

  • 簡単に使える: 初心者でも扱いやすいAPI設計。
  • 柔軟なデータ操作: 動的なデータ構造にも対応可能。

欠点

  • 機能制限: 高度なシリアライズ機能や型安全性が不足。
  • パフォーマンス: 大規模なデータや複雑な構造には不向き。

導入方法

  • SimpleJSON GitHub からスクリプトをダウンロードし、Unityプロジェクトに追加します。

使用例

using SimpleJSON;

public class Example
{
    public void SerializeExample()
    {
        var jsonObj = new JSONObject();
        jsonObj["name"] = "Charlie";
        jsonObj["level"] = 7;
        string json = jsonObj.ToString();
    }

    public void DeserializeExample(string json)
    {
        var jsonObj = JSON.Parse(json);
        string name = jsonObj["name"];
        int level = jsonObj["level"];
    }
}

5. Odin Serializer

概要

  • 提供元: Sirenix(商用ライブラリ、Odin Inspectorの一部)
  • 主な用途: 高度なシリアライズ機能を提供するカスタムシリアライザ
  • 対応プラットフォーム: Unity

特徴

  • 高機能: 複雑なデータ構造、ポリモーフィズム、参照の保持などをサポート。
  • 柔軟性: カスタムルールや条件付きシリアライズが可能。
  • 統合: Odin Inspectorと統合されており、エディタ上での操作が容易。

利点

  • 高度なシリアライズ: 複雑なオブジェクトや循環参照のシリアライズが可能。
  • カスタマイズ性: シリアライズプロセスを細かく制御できる。
  • サポートとドキュメント: 商用ライブラリとして信頼性が高く、サポートも充実。

欠点

  • コスト: 商用ライブラリであり、購入が必要です。
  • 依存性: Odin Inspectorと密接に統合されているため、併用が前提となる場合が多い。

導入方法

  • Unity Asset Storeから購入・インストールします。

使用例

using Sirenix.Serialization;

public class Player
{
    public string Name;
    public int Level;
}

public class Example : SerializedMonoBehaviour
{
    public Player player;

    public void SerializeData()
    {
        byte[] bytes = SerializationUtility.SerializeValue(player, DataFormat.JSON);
        string json = System.Text.Encoding.UTF8.GetString(bytes);
    }

    public void DeserializeData(string json)
    {
        byte[] bytes = System.Text.Encoding.UTF8.GetBytes(json);
        player = SerializationUtility.DeserializeValue<Player>(bytes, DataFormat.JSON);
    }
}

比較まとめ

特徴 / ライブラリJsonUtilityNewtonsoft.Json (Json.NET)System.Text.JsonSimpleJSONOdin Serializer
統合性Unity標準ライブラリ外部ライブラリ外部ライブラリ(Unityでの互換性要確認)外部ライブラリ(スクリプト追加)外部ライブラリ(商用)
パフォーマンス高速中程度非常に高速低〜中高速
機能の豊富さ基本的なシリアライズのみ非常に豊富基本的なシリアライズ簡易的な操作非常に豊富
ポリモーフィズム対応非対応対応制限あり制限あり対応
カスタマイズ性中程度非常に高
使いやすさ非常に簡単学習曲線あり中程度非常に簡単学習曲線あり
ライブラリサイズ軽量大きめ軽量非常に軽量大きめ(Odin Inspector含む)
価格無料無料(オープンソース)無料無料有料
主な用途シンプルなデータの保存・読み込み複雑なデータ構造やカスタム要件高速なシリアライズが必要な場合簡易的なJSON操作高度なシリアライズが必要な場合

選択時の考慮事項

プロジェクトの規模と複雑性:

  • 小規模でシンプルなデータ管理: JsonUtilityで十分。
  • 大規模で複雑なデータ構造や継承関係が多い場合: Newtonsoft.JsonOdin Serializerを検討。

パフォーマンス要件:

  • 高速なシリアライズ/デシリアライズが必要な場合: System.Text.JsonJsonUtility
  • 機能性とパフォーマンスのバランスを考慮する場合: Newtonsoft.Json

カスタマイズの必要性:

  • カスタムコンバータや特定のシリアライズ設定が必要な場合: Newtonsoft.Json
  • 高度なカスタマイズが必要な場合: Odin Serializer

コストとライセンス:

  • 無料でオープンソースのライブラリを優先する場合: JsonUtilityNewtonsoft.Json
  • 商用サポートや追加機能が必要な場合: Odin Serializerを検討。

開発者の経験と学習曲線:

  • 簡単に始めたい場合: JsonUtilitySimpleJSON
  • 高機能を活用するための学習を厭わない場合: Newtonsoft.Json

結論

UnityにおけるJSONシリアライズ/デシリアライズの選択は、プロジェクトの要件やデータの複雑性に大きく依存します。

  • シンプルなデータのシリアライズ/デシリアライズ: JsonUtilityが最適。Unityに組み込まれており、軽量で高速。
  • 複雑なデータ構造やポリモーフィズムが必要な場合: Newtonsoft.Jsonが最適。高機能で柔軟性が高い。
  • パフォーマンス重視で、基本的な機能で十分な場合: System.Text.Jsonが適しています。ただし、Unityとの互換性を確認する必要があります。
  • 簡易的なJSON操作や動的なデータ処理が必要な場合: SimpleJSONが便利。軽量で扱いやすい。
  • 高度なシリアライズ機能が必要で、商用利用を検討している場合: Odin Serializerが最適。豊富な機能とサポートが魅力。

プロジェクトのニーズに最も適したツールを選び、効率的かつ効果的なデータ管理を実現してください。

C#,JSON,Unity

Posted by hidepon