「プログラマの仕事はなくなる」は本当か
― AI時代の誤解と、“学びを止める言葉”への警鐘 ―
はじめに
最近、教室の中でこんな言葉を耳にします。
「コーディングの仕事はAIがやるようになる」
「単純作業はロボットに置き換わる」
「プログラマの需要も減っていく」
確かに、AIや自動化の進化は現実です。しかし、こうした言葉が職業訓練の場で繰り返されると、学びの意欲を奪う悪影響を生みます。なぜならそれは、未来を語る建設的な意見ではなく、「努力しない理由」にすり替わった評論だからです。
1. 「単純作業が減る」は事実。しかし、それは“終わり”ではなく“始まり”
工場の作業、データ入力、定型的な処理など、繰り返し作業は自動化が進んでいます。
しかし、これは人が不要になるという意味ではありません。
むしろ、自動化によって人はより創造的な業務に集中できるようになります。
つまり、単純作業の価値が下がる一方で、「仕組みを考え、改善する人」の価値が上がっているのです。
2. 「プログラマはいらなくなる」は誤解
AIがコードを自動生成できるようになった今、「プログラマはもう必要ない」と言う人もいます。
しかし、AIができるのは“指示されたことを実行する”範囲まで。
目的を決めること、構造を設計すること、責任を持つことは人間の役割です。
領域 | AIでは困難な理由 |
---|---|
要件定義 | 顧客の目的や背景を読み取る必要がある |
設計 | 全体構造を判断し、変更に強い形を決める |
品質保証・最適化 | 問題の背景を推測し、改善策を立てる思考が必要 |
チーム開発 | 他者の意図を理解し、協働して決断する必要 |
AIが得意なのは「書くこと」、人間が担うべきは「考えること」です。
3. 問題は、AIではなく“学ばない理由にしてしまうこと”
「どうせAIがやる」「ロボットがやる」「意味がない」
――こうした言葉は、一見未来を見据えているようでいて、実は現実から逃げるための言葉になっていることがあります。
特に、これからキャリアを変えようと努力している仲間にとって、その言葉は“やる気を奪う毒”になります。
職業訓練校は評論の場ではなく、自分の未来を作る実践の場です。
4. 「では、あなたはどんな職業に就きたいのか?」
AIが仕事を奪うと語る人に、こう尋ねてみましょう。
「では、あなたはどんな職業に就きたいのですか?」
「今の時点で、将来も安全で完璧に置き換わらない仕事を選べますか?」
おそらく、誰も確信を持って答えられません。
なぜなら、未来の多くの仕事は今はまだ存在していないからです。
10年前、誰が「AIプロンプトエンジニア」や「UXリサーチャー」という職業を予想できたでしょうか。
将来の仕事を“完全に安全な選択”として今決めることなど不可能です。
5. 自分の価値はどこにあるのかを問う
大切なのは、「どんな職業が残るか」ではなく、“自分の価値はどこにあるのか”を問うことです。
機械が得意なことに自分を合わせるのではなく、人間にしかできない価値を磨くこと。
- 相手の意図をくみ取る
- 問題を整理して仕組みを作る
- チームで共有し、改善を繰り返す
これらはすべて、AIではなく人間が担う価値領域です。
その力を育てることこそ、学びの本質です。
6. プログラミングは「AIを使いこなすための言語」
プログラミングは、単なる技術習得ではありません。AIや自動化を正しく活用し、自分のアイデアを形にするための「思考の道具」です。
学びの力 | 活かされる場面 |
---|---|
論理的思考力 | 問題を分解・整理する |
精密な表現力 | AIに正確な指示を出す |
構造化の力 | システム全体を設計する |
問題解決力 | 予想外の状況にも対応する |
AIを使う時代にこそ、“考える人間”の力が価値を持つのです。
7. 評論家ではなく、実践者へ
未来を語るだけなら誰でもできます。
しかし、社会を変えるのは、実際に手を動かす人です。
「AIができることを語る人」ではなく、「AIでできることを実際に作る人」になろう。
職業訓練校は、評論ではなく行動を学ぶ場所です。
未来に必要なのは“安全な仕事”ではなく、変化に対応できる柔軟な自分です。
おわりに
AIが進化する時代において、「プログラマはいらなくなる」「単純作業はロボットがやる」と語る人がいます。
しかし、本当に問うべきはこうです。
「自分の価値はどこにあるのか?」
「どんな形でも社会に貢献できる力を、今育てているか?」
未来は“奪われるもの”ではなく、“つくるもの”です。
その力を鍛える場が、まさに今、あなたがいる学びの場です。
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